手作り感が味わい深い「今夜もHi-Fi」 ー松室政哉 Home session
リモートセッション
開催予定だったライブ「はじまりの鐘が鳴る」の雰囲気を味わってもらおうと、松室政哉がそのライブのサポートメンバーと行ったセッション。
選ばれたのは、アルバム『シティ・ライツ』収録の「今夜もHi-Fi」という曲だった。
このセッションを聴いて、オーガニックな感じが良いなあと思ったのでそれについての感想を書いていきたいと思う。
柔らかな雰囲気の演奏
全体の印象としてまず感じたのが、落ち着きだ。個々がリラックスした状態で曲に挑めていて、ゆったりとした感じが伝わってくる。
リズムの要のドラムの音量を絞っていることや、このバージョンがピアノを基調としているのも要因としてあるだろう。
テンポも若干遅く感じる。多分同じだろうけど。
また、リモートでは音を合わせるのが難しく、いつも以上に別の人が鳴らす音や声に耳を傾けなければならないと思う。そういう姿勢とかも演奏に表れているのかもしれない。
話は逸れるが、歌手だけでなく1人1人に注目できる画面構成も良いと思っていて。
ライブではバンドメンバーをここまでフィーチャーすることはできないからね。
続いて原曲と比べてみると、音響とかの問題でどうしてもバシッと音が止まっていなかったりするけど、余韻のように音が残り続けているのがまた違って素敵だと思った。大サビもこのバージョンではしっとりとしている。新たな側面が見えてくる。
変わらないところもしっかりある。松室の声だ。
音源と全く遜色ない。万全の環境ではないにも関わらず、だ。
でも個人的に彼の歌は生で聴くのが至高だと思っているので、そこが少し心残り。
ソウルフル→ジャジー
「今夜もHi-Fi」の核となる部分はポップスなのだが、ブラスが加わることでブラックミュージック要素が加わってソウルフルな印象になる。
対照的にこのバージョンは先ほど言ったようにピアノ基調でアコースティック感が強い。リズムは変わっていないので、演奏する楽器が変わるだけで途端にジャズっぽくなる。
ところどころアレンジもされている。ギターは原曲ではフレーズを弾いている箇所が多かったが、今回はカッティングミュートでのストロークをメインに落ち着きめに弾いている。
聴き入ってしまうのはやはり宗本康兵が弾くピアノだ。ブラスパートがなくなった分自由に弾いているところにジャズピアノっぽさが出ている。
特にピアノ以外音階が上がっていく2サビ前のフィルインで、ピアノだけが下がっていっているところの対比が心地いい。
ピアノを主として使うアーティストでない限り、グランド、もしくはアップライトピアノでなく、キーボードをライブで使うことが多いと思う。音の反響も良いアクセントになっている。そういう点でこのセッションはすごく贅沢だと思った。
手作り感が味わい深い
それぞれの場所で動画を撮って重ねているのがこのセッション。ホームメイド感はしっかりと歌にも演奏にも反映されている。
ミックスの音がないからか本来の楽器ごとの音を楽しめる。
なのにグルーヴィー。
その手作り感や "グルーヴィーなビート" に影響されて、思わず家で一人でも自然体でノってしまう。ホームセッションとしてこの曲持ってきたのは良い選曲だなあと思った。