おんがくあれこれあらかると

音楽に関する長いつぶやき

楽曲レビュー『Dress farm 2020』sumika

プロジェクト、再始動。

2014年に初めて実施されて、計3回行われてきた『Dress farm』。

このプロジェクトでリリースされた音源は、買い手自身が自由に購入額を決められる販売形式をとった。

 

 

このプロジェクトがリデザインされて、『Dress farm 2020』として戻ってきた。

今回はチャリティーの意味合いが強く込められている。

sumika.info

 

これを実施するにあたって、sumikaは4つの新曲を制作した。同時に4本の未公開ライブ映像を放出した。なんとも豪華である。

 

特に私はひとりひとりそれぞれ作曲した4曲にグッときたので、普段より短めであるけどこの4曲について書いてみることにした。

 

sumika『Dress farm 2020』より、

「トワイライト」「晩春風花」「VOICE」「憧憬」のレビューです。

 

 

トワイライト


sumika / トワイライト【Dress farm】

 

作曲:片岡健太

 

JポップやJロックなど日本の曲は、Aメロ→Bメロ→サビの順で音が高まっていくものが多いと思う。対して、いきなり高いキーから始まって音が上がるAメロに、やっぱり片岡の作曲センスを感じてしまう。

 

全体的に温かさで包み込まれている曲。穏やかで緩やかなメロディーが絶対的な安心感を与えてくれる。サビがほとんどハモっているように、他の曲に比べて圧倒的に多いコーラスパートの音の重なりが人の存在をより強く意識させている。

 

そしてsumikaというバンドやコンセプトが体現されている曲だと思う。

sumikaはライブに行くたびに「おかえりなさい」と言ってくれるバンドだ。歌詞の "晴れて「おかえりなさい」と迎えよう" は「この状況を抜け出したら必ずライブで会おう」というメッセージだと思った。

 

 

曲も一緒に作る人がいないと、届ける人がいないと、聴いてくれる人がいないと…
sumikaに関わる全ての人を"君"に例えているんだろうな。

 

 

晩春風花


sumika / 晩春風花【Dress farm】

 

作曲:小川貴之

 

「Summer Vacation」「Monday」などツッツクタッタカのリズムでオシャレな楽曲に定評があるKey. 小川の作曲。

 

楽曲自体はすごくポップで、キーボード音の跳ね方が印象的。
スキップしているような、雨音や、雨粒が弾けるような風景が目に浮かぶ。でも歌詞を見ると心のどっかで引っ掛かりを感じている様が分かる。

 

ピアノのイントロからシューっと記憶が巻き戻って、アウトロで花を揺らしていた風がおさまって、またピアノに戻るというように構成も綺麗だと思った。

 

この曲でsumikaにまた新しい要素が加わった。珍しくクリック音とか電子音とかが使われている。間奏の空白部分もそう。どちらも楽曲に彩りを添えている。彼が作った曲は確実にsumikaの楽曲の幅の広さを支えているんだなということを感じた。

 

次の桜の季節が待ち遠しくなった。

 

 

VOICE


sumika / VOICE【Dress farm】

 

作曲:荒井智之

 

私は彼が作曲したsumikaの楽曲を知らない。知らないだけであるのかもしれないけど。

ただ、この曲はsumika初期の「雨天決行」のような曲を彷彿とさせる。ずっと昔から片岡と一緒に音楽をやってきた、sumikaを最初から作ってきたDr. 荒井だからこそ書けたのかもしれない。

 

音楽番組やメディアなどで取り上げられる華やかな楽曲とは対照的で、ザ・ロックな曲に仕上がっている。1拍ずつ音を鳴らすギター・ベースの感じもいわゆるロックサウンドBPMが速く、疾走感が溢れている。

 

曲としてはシンプルだけど、その分それぞれの楽器の主張が激しい。楽器と楽器が良い意味でぶつかり合っていて、エネルギッシュでどこか泥臭さを帯びている。

 

歌詞も、自分なりに今できることをやっていくという宣言を声を大にして叫んでいる様子が伺える。 "すべてラララ歌い覚ましてやる" のこぶしを使った歌い方も凄い気迫だ。少年の頃の一直線に駆け抜けていくような熱さが見えた1曲だった。

 

 

憧憬


sumika / 憧憬【Dress farm】

 

作曲:黒田隼之介

 

Gt. 黒田が作る曲はメロディーにストーリー性を感じるものが多い。「下弦の月」とかも。バンドの作詞作曲の順序は分からないが、その曲調をしっかり受け止めて書いたであろう片岡の歌詞とも毎回がっちりはまっていて唸らされる。

 

この曲の歌詞の中では、若い頃のなりたい自分と現実のギャップに対する葛藤・迷い、そして大人になってからの気づきが表れていると思う。そうやって歌詞が変化するのと同様に曲の雰囲気も少しずつ変わっている。

 

アコギひとつとっても、イントロと大サビのストロークの質感が違うところもなんか意味があるなあと考えさせられる。

 

もちろんギタリストが作曲しているということで、ギターが基調とはなっているものの、彼はすべての楽器をポイントを分けてバランスよく使って作曲する天才だと思う。特にCメロ終わりのシンバルとピアノの掛け合いが私は好きで、対極の音を出す2つ楽器が同時に奏でられることでエモーショナルな音色になっている。

 

芸術的な曲。

 

 

それぞれの個性が活かされた4曲

この4曲を聴いて、4人とも自分の演奏する楽器(ギター、キーボード、ドラム)で曲を作ったんだろうなと容易に想像することができた。

それぐらいその自分たちの楽器の音が曲に色濃く反映されていたから。個性としてしっかり浮かび上がっていた。

 

そもそもバンドメンバー4人とも作曲ができるっていうのが凄い。

しかもこの短期間で曲も作ってリモートでレコーディングして、相当な労力だったに違いない。そうやってsumikaに関わる人たちを勇気づけるために動いているだけでものすごい価値があると私は思う。

こんなバンド滅多にいないのではないか。

 

 

sumikaはピンチの時ほど強い。